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皆既日食・百名山登山・サンティアゴ巡礼~ビックリする心 - 趣味遊遊

井上太一さん(いのうえ たいち)プロフィール
1950年(昭和25年)兵庫県尼崎市生まれの神戸育ち。
1975年、阪大理学部修士を卒業して三菱化成(現:三菱化学)入社。工場・海外技術輸出・商品企画・新規事業などを歴任する。
2000年に早期退職制度を利用し退社。以後、3つほど職場を渡り歩き、2005年から現在の職場である「学校法人つくし野学園事務長」に就任。
現住所は東京都八王子市。

サンティアゴ巡礼~最高だった2ヶ月の旅&800キロの徒歩での巡礼


▲フランス出発地
さて最後はどうしても「サンティアゴ巡礼」の話をしなければなりません。巡礼という言い方だと分かりにくいかもしれませんが、四国の八十八箇所巡礼(お遍路さん)をイメージされるといいと思います。サンティアゴとは聖ヤコブのことでキリスト教の12使徒の一人です。この聖ヤコブの遺骨が9世紀にスペインの北西に発見されたことで巡礼地として栄えたサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂、ならびにスペインの北側を走る巡礼道路が世界遺産に指定されたりしました。スペインの観光局が山の中の道路や宿泊施設、標識などを補修・整備したこともあり、近年、ブームともいえるほど徒歩巡礼が盛んになってきました。

さてここで私自身の話ですが、きっかけとなったのは1995年の忘れもしない阪神淡路大地震でした。私は1982年に東京に出て来て以来ほとんどもう東京住まいが長くなっていましたが、生まれは尼崎で育ちは神戸でしたので、この地震の体験~故郷(神戸港)の崩壊が私の心に強い影響を与えました。世界観の激震~神戸っ子にとって誇りであった神戸港の突堤がボロボロに崩れてしまった~この体験が早期退職やそれ以後の生き方、生活意識を決定づける要因となっているといっても過言ではありません。元々、「旧約聖書」は(信仰ではなく、文学として)大好きで何度も読んでいたのですが、やはり世の中はむなしい・・・お金・財産・地位・名誉だけでなく家族や友人も地震によって一瞬で無くなるのだ、と感じたのです。


▲ピレネー超え巡礼路
さて巡礼ですが、実は地震の体験が引き金となって全然キリスト教徒でも何でもなかった私が、友人がカトリック信者であったこともあり自然と教会のミサに通うようになったのです。後で分かったことは、カトリックの方が世界を旅していて何処でも教会があるしミサに出られるといううれしい事実でした。その後、教会に通うようになったことで知り合ったある一人の人~私より一回り以上年上(当時68歳)ですが~から「サンティアゴ巡礼っていうのがあるんだけど一緒に行かない?」と誘われたわけです。考えてみれば本当に不思議なご縁です。私達が行ったのは2005年の初夏の5月でした。

「サンティアゴ巡礼」というと堅苦しそうですが、別にそんなこともないですね。もちろんキリスト教徒である必要もないんです。えっ?と思われるかもしれませんが信仰だけが目的で巡礼に来てる人は1割くらいじゃないですかね。信仰に導かれて巡礼するというより、自然と触れ合うスポーツという感覚で巡礼する感じでしょうか。日本人も何人か会いましたが世界中から巡礼者が来ていて、教会が一杯あるスペインの田舎道をテクテク西へ西へと歩いているのです。何で巡礼の旅をしてるの?といろんな国の人に聞きましたが、まあ単純に観光っぽい目的の人もいるし、恋人探しの人もいる、老夫婦が人生を見直すとか自分探しみたいなスピリチュアルな目的の人もいる、そんな感じです。マドリッド・バルセロナなどの都会と違って、このあたりの田舎は治安もいいので恐怖心をもったことは1度もありませんし、食事中もザッグは外に放り出していました。まあ英語が全く通じない場所はありますのでそういうところでは日本語で話しかけた方が精神上負担にならないです。


▲巡礼者とコーヒー休憩
基本はすべて徒歩です。総行程約800キロ。東京から東海道を通り過ぎ広島の手前の福山くらいですね、1日20~30キロを歩きます。フランス側から入ってピレネー山脈を越えて、スペインの北部の田舎道をひたすら歩くのです。しかし初夏にもかかわらずとにかく暑い、周りはほとんどが荒地・麦畑・ブドウ畑、たまに山道、日差しはきついし、日陰はない、空気は日本と違ってカラカラ。それはやっぱり相当キツイですよ。特に歩き慣れない人はちょっと辛いでしょう。私たちはでっかい黒い傘を買って日傘として重宝しましたが我々だけだったですね。宿泊所は巡礼者用のアルベルゲという、部屋に二段ベッドがたくさんあり、個室シャワーは順番待ちの男女兼用・・・という安いお宿が多いです。1泊5~10ユーロ、まあ今なら1500円前後くらいですか。参考までに2ヶ月の総費用は航空運賃込み、全部で50万位ですが、これは巡礼後にルルド・ローマ・パリを回ってユーロをたっぷり使ったせいです。日食ツアーより全然安いですよ。

私はその68歳の友達と二人で挑戦したのですが、フランスのサンジャンピエドポーを出発してから38日間で目的地のサンティアゴ・デ・コンポステーラに到着。ゆっくり歩いたのですが早い人なら1ヶ月を切る日程で歩くようです。この徒歩巡礼はハードではありましたが、最高に楽しい日々でした。食事はたいてい安くて美味しかったし、ビールとワインは最高、風景も中世のような素朴な雰囲気が残っているのです。いろんな人が声をかけてくる。陽気なメキシコ人、スペイン語のガイドさん、静寂で風もない早朝の麦畑、ミサに出席した後にいただいたガーリックスープ、騎馬槍試合祭りを見学した日、牛糞だらけの道、緑深い山道と美味しい湧き水、何もかもが懐かしく生き生きと記憶に残っています。3年後にまた行く予定です。わたしの巡礼談で興味を持たれた多くの仲間と行こうと思います。行く価値のある旅だと思います。


▲巡礼スタンプ
我々はすべて歩きとおしましたが、種明かしをすると別に絶対800キロ歩かなくてもいいのです。もちろん全部徒歩が理想ですが、中には(疲れたら、とくに足にマメができたら)車で移動する人、専用バスや荷物の運び屋もいます。到着までの最後の100キロを歩いたとスタンプ帳で証明できれば、巡礼証明書なんていうのも書いてくれます。その辺は観光っぽいですね。ちなみに昨年2007年でこの証明書をもらった日本人は500人ほどいるそうです。巡礼の道の途中で沢山ある素晴らしい教会で巡礼スタンプを押してもらうのもうれしいですね。全行程をさぼらないで歩く人は意外と少ないのですが、最初は辛くてもリズム感が出来てくれば大丈夫だと思います。一つ言えるのは巡礼は到着したら終わりではなく、そこから本当の巡礼が始まるという事です。人は巡礼を行いつつ日々再生し、浮世の世界へ戻る~つまり巡礼で自分の人生を見つめ直し生まれ変わってまた世俗の世界で生きるというわけです。


▲サンティアゴ大聖堂

とりとめもなく日食・登山・巡礼と語ってきましたが、改めて本当にやりたいことが多いですね。これからの生活を考えると、仕事面では60歳過ぎまでは現役で働き次の世代にバトンタッチ出来ればうれしいですね。日食はこれからも成功率の高いのはガンガン行くつもりです。実は今年の夏は14日間のイスラエル巡礼に行く予定で、8月の北中国の日食と重なったので日食ツアーの方を諦めました。やりたい事リスト、行きたい場所リストは作っているんです。思いついたら加えています。ルート66、コンスタンチノープル、ストックホルム、ガリア戦記の古戦場、ボルネオ再訪、竜巻見学・・・

私は「驚く心」を無くしたら生きる価値はないと思っているのです。それは例えば山道で猿の集団に出会ったら「うひゃあ・・・」と感動する心です。実は5年前から「ビックリ帖」を作って毎日ひとつの目標で感動を探しているんです。古典を読んで心に響いた言葉とか、大都会のアスファルトの割れ目に咲く花を見たとかノートに書きくわえていきます。マックス・ウェーバーの言葉で「大学者に1番必要な能力はビックリする能力である」とか、養老孟司さんの言葉で「(昆虫の)世界は驚きに満ちている」これもノートに記されています。驚くことはその人の気質にもよりますが、何か驚くことがないかアンテナを張って習慣にしてしまえばそれでOKなのです。

最後に若い人にはTVばかり見てないで古典を繰り返して何度でも読めと言いたいですね。古典こそ驚きの連続です。蛇足ではありますが最後に私が激しく推薦したい本を幾つか挙げて終わりたいと思います。


☆「ローマ帝国衰亡史」 エドワード・ギボン : 塩野七生のローマより長い15世紀までの歴史、イスラム史も詳しい
☆「ガリア戦記」 カエサル : 上の「衰亡史」とこの「ガリア戦記」そして「旧約聖書」の3冊でヨーロッパの精神史はほぼ網羅出来ているといってもいい。3冊を読めば、世界の理解が変わります。
☆「史記」 司馬遷 : ご存知、中国の歴史書。中国文化・思想を理解するのに避けては通れない
☆「論語」「孟子」 : 日本人の背骨です 
☆「源氏物語」 紫式部 : いろんな人の訳があるが、谷崎潤一郎が原文に忠実でお薦め 「古事記」と「万葉集」も必読


読書するなら古典を読みなさい。同じ古典をなんども読めば著者の智慧が血となり肉となります。現代の本も結構、しかし現代の人気本だけではテレビと同じです。


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