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小渕晶男さん 歴史的な鍵盤楽器の製作 - 趣味遊遊

小渕晶男さん(おぶち あきお)プロフィール
昭和21年(1946)東京都大田区生まれ。
7歳の頃よりヴァイオリンを始め、学生時代よりチェンバロの製作をスタートする。
1971年日本大学大学院理工学研究科終了。パイオニア(株)で電気音響変換機の研究開発を手がける。
以後、シュルンベルジュ(株)、ボーダフォン勤務の後、2004年に退職。以後は長野県諏訪郡の工房でチェンバロ(ハープシコード)・クラビコード・ガイゲンヴェルクなど歴史的な鍵盤楽器の研究&製作に専念。
近年幻の楽器である「ガイゲンヴェルク」の復元制作に成功した。



「ガイゲンヴェルク」の可能性~田舎暮らし、音楽

さて「ガイゲンヴェルク」の概要はわかって頂けたでしょうか。まあ一般的な鍵盤楽器とは違って機械的な弓で弦を擦って音を出すものですから音はバイオリンに近いです。

はっきり言うと、例えばピアノやチェンバロと違って定型が確立してないし、いつでも珍しい楽器として関係者しかその存在を知られていない超マイノリティー楽器である事は事実です。他の楽器と違って発展途上だし、まだ他の楽器と同じようなレベルで演奏を提供出来るとは云えない、という事です。
まあ改良に改良を重ねてきてはいますが、まだ珍しさで人を呼んでいる次元で演奏法の開発とかも必要だし、楽器自体が音楽の対象となるところまで行ってない。

それでも「ガイゲンヴェルク」の演奏会は何回かやりましたね。四谷の教会に持っていったのは1999年かな。
2002年には池袋のセントポールズ会館でもやりました。もっと詳しく知りたい方は僕のHPを見てください。

面白い現象がありまして、「ガイゲンヴェルク」は形が鍵盤楽器な訳ですから実際に演奏するのは、まあピアノを弾く人とか鍵盤楽器奏者が弾くのです・・・・・が中身がバイオリン~つまり音程の自由度があるので、「ガイゲンヴェルク」を前にすると普通の鍵盤奏者には2種類の反応が出るのです。
1つは保守的な人(殆んど拒否反応)
例えばオルガン奏者は基本的にONとOFF感覚~鍵盤を押してる時は音が出て、離せば音が消える~に慣れているし、音楽観がそれを前提に出来ている。
だからそういう人たちに「この楽器はON[白]とOFF[黒]の間にいろんな灰色もあるぜ」と言ったとたんに弾けなくなってしまうのです。
「グレーゾーンなんてとんでもない。カチッとどっかで止めてよ」・・・みたいにね。


▲ガイゲンヴェルク

もう1つは急進的な人
グレーゾーンを許容する人ですね。「おお、これ面白いじゃん」みたいな・・・

だからこの「ガイゲンヴェルク」の今後の発展を考える時には、楽器製作家と演奏家との共同作業がないと難しいというのが僕の結論です。
でも多くの鍵盤弾きにはグレーゾーンを使って表現したいというモチベーションが少ないように思います。グレーゾーンが与えられても「こんなの私の辞書にない」とかね。
今まで何年もかかって楽器に関して研究・開発してきた苦労を奏法に関しても色々協力してくれる人がいないとなあ・・・と思うわけです。
鍵盤奏者よりバイオリン奏者の方がいいかな、とか思うこともありますよ、やりたい事はわかっているし・・・・


***参考としてこの「ガイゲンヴェルク」を開発するのに時々相談に乗ってもらっている演奏者を2人紹介いたします。
武久源造(たけひさげんぞう) オルガン、チェンバロなどの鍵盤奏者、バロックをレパートリーにする他、作曲も手がけてます。CDも結構あります。
上尾直穀(うえおなおき) 古楽鍵盤奏者、ミュゼット奏者。小渕晶男で検索して頂けば、僕の楽器工房のHPでガイゲンヴェルクのサンプル音が聴けます。



▲クラヴィコード設計図、これを元に独自で設計図を引く
お金の話はあんまりしたくないけど・・・・例えば今ここにある「ガイゲンヴェルク」は売値は180万。製作費?それは企業秘密!
今、工房で製作中の小型のクラビコードで、まあ80万円位。他はウェブサイトに代表的なタイプの価格を載せています。
チェンバロやクラビコードは注文受けて製作販売しています。プロの演奏家、勉強中の学生、アマチュアの愛好家などさまざまです。
ガイゲンヴェルクはこんな楽器買う人は絶対いない、と思ってたんですが、なぜか・・・3台売れました、スペインの会社に、そういう事もあるのです。
こういった楽器は量産とは相性の悪いものです、そんなに売れないしね(笑)。まあ、それは僕の行きたい方向じゃないっていうかね。

ちょっと振りかえって考えると、会社勤めの前から好きで楽器作りはずっとやっていて、全然お金にはならなかったけど一応これも’仕事’と捉えていた意識はあるんです。
だからもう会社はいいかと思ってリタイアしてこっち(長野)に来て100%楽器作りに専念することにして、軟着陸というと聞こえがいいかな?
つまりそれは長年ずっと準備してたものが、ようやく実ったとでもいうか。だから思うのは、会社勤めしててリタイヤしたから田舎暮らし・・・ってそんな簡単じゃない。
農業だって簡単じゃないしね。不動産屋さんが割りと気軽に定年後の永住とか宣伝してるけど、そんな簡単じゃないだろうって。
まあ割とこの辺も都会から移ってきた工芸家の方とかも多いんですが、東京にいるよりも高い確率で話が合う人に出会う、という事はあります。
田舎に移ったほうが好きなことがやりやすいから行く、ならいいんですが田舎に行くのが目的になっちゃうと早く厭きちゃうかな。

今後のイメージは・・・どうかなあ。質の高い作品製作・・・・・「ガイゲンヴェルク」はメインではないけど、研究しているのは僕とアメリカに1人位しかいないので続けようかな。
何か成果がまとまったら発表したりしながら、ね。最終的なイメージはあまり持ってないんですよ。質を高めたいという想いはあるんですが。
前に1号機は壊したいなんて話をしましたが、要はいつも「その時は納得している」んです。良く言えば、自分自身のスタンダード(標準)が厳しくなってるのでしょうか?
だから昔の作品はあまり見たくない、いつもそうです、でもそれは宿命ですね。

以前、19世紀初期のピアノを作ったことがありました。そういう物を作るとわかりますが、非常に弱々しい、か弱いピアノなんです。
1815年のピアノをコピーしたんですけど、今のモダンなピアノみたいに叩けば鳴るとか拳骨でドーンとやろうって気にならない、作りもタッチも華奢だしね。
そういう楽器は前に座っただけで弾きたくなる音楽自体が変わってきます。ピアノが演奏家に語りかけてくるというか、それに接する人の気持ちも変えるんです。

音楽に関して言えば、例えば演奏の良し悪しとか、ピアノを聴いて誰が弾いてるかわからない・・・・とか云いますが、わかりますよ。普通の人でも。
わからないのは聴いてないからです。あまりにも手軽に音楽が手に入りすぎるから真剣に聴かなくなったんです。録音ではミスを許さない(消す)しね。
CD買って聴きますよね。でも忙しいと2,3曲聴いて止めて、あとはまた・・・ですよね。変な話、1回しか聴けないCDがあったらみんな真剣に聴くでしょう。
欲しくもない所に音楽が氾濫しているからです。1つの方法としては生演奏を聴きに行くのがいいと思います。クラシックでもジャズでもポップスでも。
ちょっと話が飛びますが、演歌でいうと美空ひばりと都はるみは別格だと思います。好きとは言いませんが、魂のレベルでの表現芸術家としては最高のものを持っていますね。


▲工房にて

時々云われますが弟子をとるとかそういう気持ちは全くないです。うっとうしいしね、食いたくない奴を連れてきて無理やり食わせたって仕方ないでしょ。
何か、楽器を作るメンタリティと弟子を育てる資質、両方持っている人は中々いないような気がします。
でも、ガイゲンヴェルクに関しては僕がいなくなっても研究(成果)は残ります。残したいし、時々論文とかも書いて発表はしてますから。誰かがそれ読んでやってくれればそれでいい。
何年後か何十年後かに、それを見て「ああ、こんなところまでやってたんだ」と思ってくれれば・・・・その先をやりたい人がいればどうぞ、っていうか。
だって500年の間、いつも世界中どこかでいろんな人が挑戦してきて、だから僕もそれを続けて少しでも先に進めればいいかな、とそんな感じです。
でも、これはもしかしたら答えのない問題かも(笑)

古楽器の製作~チェンバロ第1号機←最初から読む

 
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